イングリッシュローズコテージの小さなお庭


がれきと石のぎっしり詰まった庭土と向き合って

                                          1997年5〜6月

                      

  お隣同士が白い鉄の柵で仕切られた、ごく普通のマンション
                の専用庭で、芝生の回りと奥に木が植えられています.
                                
  今から5年前の4月下旬、専用庭のついた古い高層マンションの1階に越してきて以
来、毎日ハードスケジュールで忙しく、早起きして、コンテナの薔薇たちをささっとお世話し
たあと出かけ、帰宅して夕食の片付けの済んだ夜は梱包した荷物を少しずつ解いて部
屋を整える毎日。
何とか荷物を早く片付けて、お庭に取り掛かりたい! 真っ白なキャンパスに向かって、
パステルの絵の具を使って、感性の赴くままにお庭を一つの絵に見立てて、美しい秘密
の花園を描いてみたい! はやる気持ちに駆られつつも、結局忙しさのあまり、3ヶ月ほ
どは全く手が付けられない状態でいたのでした. それでも暇を見てはスケッチを片手
に、お庭のデザイン、植栽、カラーコーディネートを幾通りも考えるのがわくわくする程楽し
くて。

  結局、超多忙を極めた7月までの3ヶ月の間に、せめてものできたことと言えば、週に1
日体を休め、プライベートに過ごすことに決めた休日に、一人で、庭に元々植わっている
元気のないやせたツツジと枇杷の木、さらに十数本のどうしても好きになれない木や切り
株を掘り上げて、抜くことでした。

  生き物の命を終わらせることは、たとえ、それが感情のない木々であったとしても、自
分の都合でせっかく謳歌している命を終わらせることに心の痛んでならない私は、病気に
かかっていないやせっぽちの木だけでも、何とか上手に土のついたまま堀り上げて、どな
たかこういう木がお好きな方に貰っていただければ幸い、と思い、当初はそのつもりで作
業を始めたのです.ところが、その願いをかなえるのは不可能であることを思い知らされ
たのでした.
   1本目のツツジを抜こうとして、作業着で威勢良く庭に出たまではよかったのですが、
その後、奮闘すること30分、どんなに力を入れても、庭土にスコップがまったくさせない
のです.ツツジをどんなに引っ張ってもセメントで固めたかのようにがっちりと動かず、小
さなシャベルに代えて少しずつ掘ってみようとしたところで、根が本当にセメント付けとな
っているようで、何とかさせて10cm止まり、がんばって15cmが限界。 体重をかけて、
どんなに踏み込んでもどうにも入らないのです。 

   私が汗だくで奮闘しているところへ、ちょうど良いタイミングで姪の薫子君(当時、高
校生)が学校の帰りに遊びに寄りました.ベランダで午後のお茶を一緒に楽しんだあと、
今度は私に代わって薫子君の出番です.
                                                     


   スコップ片手に、元気いっぱいの薫子君の登場で勇気100倍!の気分です.

                 

   ベランダからお庭に降りる階段の横では、鉢で育ててきたフェリシアがムスク系の濃
厚な香りを振りまいています.

   薫子君は制服から早速Tシャツとジーパンに着替えて、スコップ片手に張り切って、悠
然とツツジに立ち向かいました. ところが、やはりうんとも寸とも言わないのです.スコッ
プもまったく役に立ちません.「OK! まかせて!」と笑って、軽快なフットワークでツツ
ジに取り組んで15分程たったでしょうか? 薫子君の顔から笑みが見られなくなり、真剣
な面持ちになって来ました. なにやらぶつぶつとつぶやきながら、額にしわを寄せ、首を
傾げながら、懸命に取り組んでいます.

  想像を絶するほど、庭土が恐ろしくカチカチであることに加えて、セメントのようなもの
がぎっしり詰まっているようなのです。 でも、薫子君はめげずにがんばってくれました.
靴を運動靴から私の庭用ブーツに履き替え、シャベルで根気よく庭土を削っては、できた
隙間にむんずと足とスコップを踏み入れ、テコの力を借りて、顔を真っ赤に紅潮させなが
ら、汗だくでツツジを引っ張り始めました. 

    どのくらい時間が経過したでしょうか. ツツジがほんの少しグラッと動くと、すかさ
ず、新たにできた隙間にまた足を踏み入れ、を繰り返し、とうとう足はツツジの根を支えて
いる石とセメントのがれきに挟まれて、生き埋めの状態になってしまい、抜けなくなってし
まいました.SOSの薫子君を助けるため、私が薫子君を引っ張りあげ、2人でしりもちを
つきながら、ようやくがれき地獄から抜け出し、その後もくじけず、セメントの固まりと格闘
する薫子君の努力が実を結んで、ほぼ1時間後、一つ目のツツジがセメントとガラをぎっ
しりつけたままの状態で、抜けました.日が暮れそうになりながら、3つあるツツジと格闘
し終えたあと、ベランダには、薫子君と共に”奮闘賞”を与えたい程、壮絶な戦いをして負
傷し、すっかり傷だらけとなって破けたブーツが残されました. 前の家主から譲り受け
たクリーム色のお気に入りのスコップは先がグニャンと曲がっていました.

  3本のツツジは根をセメント付けのコンテナのような状態のまま固まっていて、重くて
持ち上げられないので、2人でベランダの下まで何とか引きずって移動したのでした。
      
    
                         
          抜きにくいため、株を強剪定に刈り込んで、2本目のツツジに挑戦! 
         満身の力を入れて、頑張ったので、どうやらもうすぐ抜けそうです.


P.S. その後、途方にくれた私は勤めているオフィスの近くのラフォーレ〔原宿)に、F.O.
B.Coopが入っていたことを思い出し、確かそこに輸入のガーデンツールが置いてあっ
た記憶を頼りに、早速仕事の帰りに寄って、そこで、イギリス製のとても頑丈そうな先のと
がったスコップ(グリーンの柄に張られたシール部分にRABBITと書いてあり、ウサギの
マークが入ってます。)を買い求めました。 そして満員電車に揺られながらの長い道中、
頼もしい片腕となってくれそうな由緒正しいイギリス製スコップを抱きしめて、家路まで意
気揚揚と帰ってきたのでした.


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